遺品の処分方法

孤独死の原状回復は誰がどこまで義務を負う?遺族・保証人の責任と大家の請求権利

孤独死の原状回復で、多くの人が疑問に思うのは「どこまで」という点です。たとえば以下のような点が気になっている人は多いでしょう。

この記事では上記の3点を中心に「孤独死の原状回復は誰がどこまでするのか」をまとめていきます。孤独死された故人の遺族の方にも、部屋の貸主の方にも、役立てていただける情報になるでしょう。

孤独死の原状回復とは

業者

原状回復自体は、通常の退去と同じです。賃貸住宅の退去時に、部屋を元の状態に戻すことです。

【参考】原状回復 | SUUMO

孤独死の原状回復で議論になるのは「誰にどこまで義務が及ぶか」という点です。

遺族はどこまで原状回復する義務があるか

葬儀

遺族・家族がどこまで原状回復をする必要があるかをまとめると、下のようになります。

それぞれ詳しく説明していきます。

連帯保証人ならすべての責任を負う

連帯保証人には、完全に原状回復の義務があります。連帯保証人は本人と同じと見なされるためです。

連帯というのは「イコール」という意味なんですね。「本人とイコール」つまり「本人と同じ責任」があるということです。

民法第454条に規定されている

この「本人と同じ責任がある」という内容は、民法の454条に規定されています。

【参考】民法第454条 | Wikibooks

民法の言葉ではわかりにくいですが、下記の公益社団法人の説明はわかりやすいものです。

連帯保証人となった場合には、主たる債務者と同等の責任を負い、(後略)
賃貸借契約における更新後の保証人の責任 | 公益社団法人・不動産流通推進センター

上の「主たる債務者」というのは本人のことです。孤独死なら故人です。上の説明からも「連帯保証人ならすべての責任を負う」ことがわかります。

連帯保証人でなければ、相続放棄によって責任がなくなる

法律

実は家族(遺族)であっても、連帯保証人でなければ原状回復の責任がなくなります。相続放棄をすればいいのです。

  • 遺産をすべてもらわない
  • 代わりに、原状回復などの負債も引き継がない

というやり方です。これは故人の借金などでも使えるルールで、故人に借金があるときは相続放棄をするケースが多くなります。

弁護士による説明

広島市・なかた法律事務所の仲田誠一弁護士は、ホームページのコラムで以下のように書かれています。

ご相談者が単なる相続人である場合は、相続放棄を勧めれば済むことです。
相続放棄をすれば亡くなった方の原状回復義務を引き継ぐことはありません。

しかし、ご相談者が不動産賃貸借契約の連帯保証人である場合は困ります。
相続放棄をしても連帯保証債務は残るからです。
孤独死と相続放棄、連帯保証債務 | なかた法律事務所

太字部分を読めば連帯保証さえしていなければ、相続放棄をすることで責任がなくなることがわかります。

突然死は原状回復のみかそれすらなし。稀に逸失利益の支払いも

リフォーム

一般的に、突然死の場合は(払うとしても)原状回復費だけとされます。わざと死んだわけではないので、逸失利益(家賃収入が減った分)まで請求するのは酷ということです。

この考え方の根拠となった判例の一つを解説します。

昭和58年6月27日・東京地裁の判決

まず、事件の概要をまとめると下のとおりです。

  • 故人が腐乱死体で発見された
  • 死亡後9日が経過していた
  • 隣室まで悪臭が漂っていた

そして、判決で認められた賠償金額は下のとおりです。

原状回復費用 約190万円
弁護士費用 約20万円
1カ月分の賃料 約3万円
合計 約213万円

原状回復の費用は全て認められています。そして、賃料の減収分の請求は却下(棄却)されています。

「1カ月分」というのは、あくまで「工事期間の分」であり、「借り手がつかずに云々」という賠償は認めていないということです。

この判例は『判例タイムズ508-136』で見られるものであり、WEB上では下記のRETIOのPDFで確認できます。

【参考】[PDF] 続・心理的瑕疵に関する裁判例について(P.88)

自殺は家賃減収分まで求められるケースがある

自殺

自殺は故人が「わざと」やったものです。そのため責任が重くなり、原状回復費用だけでなく、家賃の減収分の賠償まで求められるケースが多くなります。

家賃減収分を支払った判例

これは平成19年8月10日・東京地裁の判例です。まず、原告である大家が起こした訴訟の概要は、下のようなものです。

  • 大家が、相続人・連帯保証人に賠償請求をした
  • 故人の部屋と、両隣、階下の合計4部屋
  • 6年分の賃料減収分の賠償を求めた

これに対し、裁判所の判決は下のようなものでした。

  • 賠償は認める
  • ただし、部屋は「自殺があった部屋」だけ
  • 両隣、階下の賠償はなし
  • 年数は6年ではなく「3年」

これで、当初は約677万円の請求でしたが、約132万円まで減額されました。大家が勝訴したものの、金額は大幅に小さくなったという事例です。

上記はRETIOの「自殺した賃借人による損害について、賃貸した部屋以外の部屋の逸失利益を否定した事例」という資料(PDF)に書かれている内容です。

(RETIO 73号25周年記念特集号 P.196~197)

金額は小さくなったものの、この判例から「自殺なら家賃の減収分も支払う」ことがわかります。

大家はどこまで原状回復費用を請求できるか

大家

孤独死のケースで、大家が請求できる原状回復費用のポイントをまとめると、下のとおりです。

以下、それぞれ詳しく解説していきます。

自然死は原状回復費用すら請求できない場合がある

自然死(病死・突然死)は、逸失利益だけでなく、原状回復の費用も請求できない場合が多くあります。これは、下のページで銀座第一法律事務所の大谷郁夫・弁護士が解説されています。

【参考】最近の興味深い事案と判例(①孤独死の責任、②暴力団員の権利) | 三井住友トラスト不動産

この事例は裁判にならずに話し合いが成立したため、判例はありません。概要をまとめると下のとおりです。

  • 高齢者の孤独死で、発見が10日遅れた
  • 管理会社が相続人に対して、改装費180万円を請求した
  • 弁護士が管理会社と交渉した
  • 最終的に、1円も払わずに終わった

まず大谷弁護士が相談を受けたとき「払わなくていいはずなので、(九州の)近場の弁護士さんに相談してください」と対応されたそうです。そして、その近場の弁護士さんも同じ意見で、「払う義務がない」という方向で交渉した結果、

  • 管理会社の請求がまず半額になった
  • それも拒否した
  • すると、0円で終わった

という結末になったそうです。参考元に書かれている大谷弁護士と九州の弁護士さんの対応、管理会社の態度の変化を見ると、このケースで相続人が原状回復をする義務はまったくなかったことが想像できます。

これは大家側からすると「自然死なら原状回復費用ももらえないことは覚悟する」必要があります。実際、大谷弁護士は同じページで下のように書かれています。

(前略)法的には亡くなったことや発見が遅れたことについて入居者に責任はありませんので、孤独死の場合に特別に必要となる原状回復費や賃料の下落を、入居者の連帯保証人や相続人に求めることはできません。保険などで対応するほかないのです。

これは大家さんにとっては少々衝撃かもしれません。「そんな馬鹿な」と思うかもしれませんが、実際上の事例が「裁判にすらならなかった」ことを考えると「法的にはその通り」なのでしょう。

ただ、実際には裁判で原状回復については認められた事例が複数あります。それを次の段落で紹介します。

原状回復費用の請求が認められた判例は複数ある

原状回復

自然死でも「必要な原状回復の費用」が認められた判例は複数あります。直近の凡例では、平成29年9月15日・東京地裁の判例があります。

【参考】[PDF] 賃借人の貸室内での死亡について、善管注意義務違反が
あったとする賃貸人の損害賠償請求が否認された事例 | RETIO

判例の概要は下のとおりです。

死因 不明(孤独死)
発見時期 死亡後約2カ月半
原状回復費用 63万6321円
工事期間の家賃 10万円(1カ月分)
合計の賠償金額 73万6321円

このときの工事内容は下のとおりです。

クロス剥がし&畳処分費用 4万3200円
害虫対策費&養生費 1万1437円
車両駐車代 1400円
鍵交換費用 2万7000円(故人が紛失していた)
その他 資料内に記載なし

逸失利益については否定されたものの、原告(大家)が主張した原状回復費用は全額認められています。

原状回復だけでなく家賃減収分を請求できた判例がある

家賃

一般的に「自然死は原状回復の分しか請求できない」とされます。しかし、家賃減収分の逸失利益まで請求できたという判例があるそうです。

平成29年の東京地裁判決では「餓死」による事件性のない入居者の死亡で、死後1ヶ月程経過してから腐乱した状態で発見された事案において高額な原状回復を認めただけでなく、逸失利益についても認めた判例が出ています。
事故物件現場に関する考え方及び過去の判例 | 第八行政書士事務所

「あるそうです」というのは、筆者もデータベースをくまなく探したものの、見つからなかったためです。引用元の行政書士事務所さんが書かれている概要を箇条書きでご紹介すると、下のようになります。

  • 事件性のない餓死
  • 遺体は腐乱していた
  • 室内をスケルトン化する大規模な修繕
  • 心理的瑕疵による逸失利益が認められた

さらに詳細を書くと下のとおりです。

賃料 7万円
管理費 1万円
発見時 死亡後1カ月
原状回復費用 約654万円
逸失利益(損害賠償) 約136万円

この判例では、下の工事が認められました。

  • 一旦スケルトンにする
  • その後、設備を交換する
  • 床板を張り替える

そして、逸失利益については下のように認められました。

賃貸不能期間 1年
割引賃料期間 2年
合計 3年

元の判例は見つからなかったものの、ここまで紹介したデータ自体は確実に存在するはずです。そのため、大家さんが「どこまで請求できるか」、故人の遺族の方は「どこまで請求されてしまうか」という参考にしていただけるでしょう。

どこまで(誰まで)原状回復の責任が及ぶのか

弁護士

孤独死の原状回復の責任はどこまで(誰まで)及ぶのか―。表でまとめると下のとおりです。

本人(故人) 遺産で支払える場合
家族(遺族) 保証人である or 相続放棄をしなかった場合
大家(賃貸人) 請求相手がおらず近所から苦情がある場合

それぞれ詳しく説明していきます。

本人(故人):遺産で支払える場合

ご本人は当然亡くなっていますが、遺産は残っていることがあります。そして、この遺産で賠償できる場合は、そこから支払われます。

手続き自体は遺族がするわけですが、支払能力を発揮したという意味では「故人が支払った」とも言えます。

家族(遺族):保証人である or 相続放棄をしなかった場合

家族や遺族は、賃貸契約の保証人になっていた場合、原状回復の義務があります。逆に保証人でなければ、相続放棄をすることで責任が免除されます。

平成29年の判例で遺族が原状回復費用を支払ったのは、相続放棄をしなかったためです。相続放棄は「3カ月の熟慮期間」のうちに、手続きをしなければいけません。

この判例では、相続放棄さえしていれば遺族は「原状回復費用を払う必要がなかった」と考えられます。このことは、先にも登場した大谷弁護士が、下の記事で指摘されています。

被告らの唯一の反論は、相続放棄の手続きをとったことでしたが、被告らが相続放棄の手続きをとったのは、3か月の熟慮期間を経過した後であったため、その効力が認められず、原状回復義務を認められてしまいました。
相続人に原状回復費用の請求ができるか?孤独死して遺体発見が遅れた場合の原状回復費用の負担者 | 三井住友トラスト不動産

大家(貸主):請求相手がおらず近所から苦情がある場合

大家男性

以下のような請求相手がいなければ、大家さん(賃貸人)が自腹を切ることになります。

  • 家族・遺族
  • 連帯保証人
  • 友人・知人(責任はないが払ってくれる人)
  • 仕事関係者(会社のイメージのために払ってくれる場合も)

上記のような心当たりをすべて当たり、それでも支払ってくれる人がいなければ「自分で払う」しかないのです。この場合、大家に「義務」はありません。

あくまで「払うなら自分で」というだけで「放置しておいてもいい」のです。しかし、放置できない場合もあります。それが「近所から苦情が来ている」場合です。

  • アパート内の隣家からの苦情
  • アパート外のご近所からの苦情

上記の2種類がありますが、これらの苦情に応えるのは大家の義務です。そのため、孤独死の原状回復で「大家・貸主に義務が生じる」ということもあるのです。

原状回復は何をどうすればいい?

リフォーム

「どこまで責任が及ぶか」がわかったら、次に気になるのは「具体的にどんな作業が必要なのか」「どこに依頼すればいいのか」という点でしょう。これらの点について、ポイントをまとめると下のようになります。

作業内容 床・壁・水回りのリフォームが中心
依頼先 遺品整理業者・リフォーム会社など
費用 相場・平均金額は39万円

それぞれ詳しく説明していきます。

作業内容:床・壁・水回りのリフォームが中心

孤独死現場の原状回復では、主に下のような工事をします。

  • フローリング・壁紙の交換
  • 床板・壁材の交換
  • 便器・浴槽などの交換(現場がこれらの場所の場合)

たとえば「血が飛び散っただけ」という場合、床は表面のフローリングのみ、壁は壁紙の交換のみで完了します。しかし、発見に時間がかかり、ご遺体が腐敗して体液化してしまっていたという場合、作業がもっと複雑になります。

  • 体液が床板に染み込んでいることがある
  • その場合、表面だけでなく床板の木材も交換が必要
  • その下のコンクリ部分まで行っていれば、そこも工事が必要

人間の死臭は強烈で、一度染み付いた部分はかなりの長期に渡って匂いが持続します。そのため、こうして染み込んでしまった材料をすべて交換しないといけないのです。

(基礎のコンクリ部分は、さすがに全部交換とは行かないため、染み付いた部分のみ削るなどします)

孤独死現場がトイレやお風呂であった場合は、死臭の問題がなくても精神的な理由から、交換することが多くなります。

依頼先:遺品整理業者・リフォーム会社など

まとめ

原状回復の工事を自らできれば理想ですが、できない人がほとんどでしょう。DIYの経験があったとしても、特に死臭の除去となるとレベルが違うため、プロの依頼するべきです。

プロに依頼する場合は、大別して下の2つの選択肢になります。

  • 遺品整理業者
  • リフォーム会社

最終的に、やる作業自体はリフォームです。ただ、リフォーム会社は孤独死についての知識がないことも多くあります。

たとえば「遺体が腐敗して体液化してしまった場合、どのレベルまで浸透しているのか」という知識がないことがあります。そのため、工事の段階で「ここまでは染み込んでいないだろう」と、床下のコンクリ部分を見落としてしまう、などの可能性も考えられます。

この場合、作業中は匂いが気にならなくても、後日誰かが長期間住み始めたら、夏場などに臭い始める可能性もあります。嗅覚には個人差があるので、ほんの僅かな臭いだと、

  • 業者のスタッフさんは鈍感で気づかない
  • 次に住む人は敏感で気づく

という可能性もあります。嗅覚の違いは臭気判定士という国家資格もあるほどで、リフォームのプロでも嗅覚が鈍くて建物の問題に気づかないということはあるのです。

その点、遺品整理業者は孤独死についての知識や経験があります。もちろん業者によりますが、経験の豊富な業者であれば「ここまで体液が浸透している可能性がある」ということに、気づきます。また、死臭に敏感であるため、わずかな臭いでも気づくスタッフもいます。

最終的には遺品整理の業者にしてもリフォーム会社にしても「人による・業者による」というのが実情です。入り口としては遺品整理の業者の方が向いているため、まず遺品整理の業者と相談し、リフォーム会社への依頼が必要かどうかを判断しましょう。

費用:相場・平均金額は39万円

孤独死の原状回復費用は、平均で約39万円となります。これは、日本少額短期保険協会の資料によって公表されている金額です。

【参考】第3回孤独死現状レポート(PDF)

孤独死の原状回復費用については、下の記事で詳しくまとめています。

孤独死の原状回復費用の相場はいくら?損害賠償はどこまで義務がある? 孤独死で遺体の腐敗が進んでから発見された場合、賃貸物件であれば「原状回復」が必要になります。その費用について、多くの人が気になるのは...

まとめ

業者

今回の要点をまとめると下のとおりです。

  • 自然死なら、故人側は原状回復の義務すらないことがある
  • しかし、原状回復費用は認められた(大家が勝った)判例がある
  • さらに「逸失利益まで認められた」判例がある(平成29年)
  • 上記はどちらも「自然死」のもの
  • 「自殺」ならさらに大家側の請求が通りやすくなる
  • ↑(自殺は故意にしたものなので)

さらに簡単にいうと下のようになります。

  • 自然死なら遺族側が有利
  • 自殺なら大家側が有利
  • 連帯保証人の責任は故人本人と同じ

上の3つのポイントを足がかりに、それぞれのケースでどういう交渉ができるか、遺品整理業者と合わせて、弁護士などの専門家に相談してみるといいでしょう。